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サウナしきじ

湧き出る泉のように、駿河の山々から恵みの水が溢れ出る。それはほのかな甘みを持ち、驚くほどまろやかで、天を仰ぐと滝のように天井から降り注ぐ。この水に身を委ねる瞬間、サウナ愛好家たちが「聖地」と呼ぶ理由を、全身の細胞が理解する。

静岡市郊外に佇む「サウナしきじ」は、一見すれば普通の温浴施設に過ぎない。華美な装飾もなく、派手なイベントも行われない。それなのに、年間7万人以上が訪れ、多くの著名人がその名を口にする場所となった。なぜだろうか。

答えは、水にある。

市販の飲料水の2倍から3倍ものミネラルを含む湧き水は、「奇跡の水風呂」と称される。浴槽から溢れ出る豊かな水量と、天井から流れ落ちる水流が水中に酸素を多く含ませ、入るだけでなく、飲むことも、持ち帰ることもできる特別な水だ。多くの常連客が愛用の水筒を持参するのも頷ける。

そして、もう一つの主役が高温高湿の薬草サウナ。12種類の薬草をブレンドし、この天然水で蒸気化した空間は、体感温度が90℃を超える熱さながら、不思議と息苦しさを感じない。発汗作用が強く、体内の毒素が抜けていくような感覚を味わえる。多くのサウナ愛好家が、薬草サウナと天然水風呂の往復に至福を見出す理由がここにある。

「サウナしきじ」の歴史は2005年に始まる。前身は「ヘルシーサウナ高松」という施設で、大村英晴氏が競売で購入し改修して創業した。しかし、当初は客足が伸び悩んだという。転機となったのは、お笑い芸人の藤森慎吾氏が自身の交友関係やテレビ番組で紹介したこと。2015年前後から徐々に人気が高まり、今や「サウナーの聖地」と呼ばれるまでになった。

館内に足を踏み入れると、「実家のような安心感」を覚えるという声をよく聞く。豪華ではないが清潔感があり、必要なアメニティはすべて揃っている。館内着、バスタオル、フェイスタオルはもちろん、シャンプー、リンス、石鹸、歯ブラシ、カミソリ、化粧品類まで無料で利用できる。まさに「手ぶらで来られる」のだ。

年中無休の24時間営業で、料金も男性は平日1,500円、土日祝日1,700円。毎日6:00~9:00と17:00~深夜2:00には、お得なタイムサービス料金1,000円が適用される。女性はさらにリーズナブルで、1日1,000円。こうした価格設定と利便性も、多くのリピーターを生み出す要因となっている。

一度訪れた人は、不思議なことに再び足を運びたくなる。それは単なる温浴施設ではなく、心と体を癒す特別な場所だからだろう。テレビ番組「サ道」や「マツコの知らない世界」など、数多くのメディアでも取り上げられ、その名は全国に広まった。

しきじを訪れる際には、周辺の観光も楽しみたい。車で10分ほどの場所には、弥生時代の集落跡「登呂遺跡」があり、車で20分ほど足を延ばせば「三保の松原」から富士山を望むことができる。また、静岡県内に店舗を持つハンバーグレストラン「さわやか」の「げんこつハンバーグ」は、地元グルメとして知られている。

サウナと食、そして観光。この三位一体の体験が、しきじの魅力をさらに高めている。

私が初めて訪れたのは、夏の終わりだった。東京から高速バスに揺られること約3時間。静岡駅からバスに乗り換え、「登呂コープタウン」のバス停で降りると、そこから徒歩3分ほどで到着した。

扉を開けると、すでに数人の常連らしき人々が休憩スペースでくつろいでいた。フロントで料金を支払い、アメニティを受け取り、脱衣所へ。

最初に薬草サウナに入った瞬間、その熱さに思わず息を呑んだ。しかし、不思議と呼吸はしやすく、徐々に体が温まっていく。7分ほど過ごした後、いよいよ評判の水風呂へ。

体を沈めた瞬間、言葉にできない心地よさが全身を包んだ。水温は冷たいのに、肌を刺すような痛みはなく、むしろ優しく体を包み込むような感覚。天井から流れ落ちる水滝の音が心を洗い流すようだった。

この「熱と冷」の繰り返しを3セット行った後、外気浴エリアで深く呼吸する。そして、ようやく訪れる。あの伝説の「整い」が。

体が軽くなり、思考が澄み渡り、心が静かな喜びに満たされる。現実の喧騒から解き放たれ、ただ「今」を生きている感覚。それが、「整い」なのだ。

サウナしきじが特別なのは、その水質だけではない。この場所には、忙しい日常から離れ、自分自身と向き合う時間と空間がある。都会の雑踏では決して見つけられない、心の静寂がここにはある。

季節は移ろい、人は行き交い、世界は常に変化している。しかし、しきじの水は変わらず湧き続け、薬草の香りは変わらず漂い続ける。この不変の安らぎが、多くの人々の心を捉えて離さないのだろう。

帰りの高速バスに揺られながら、窓の外に広がる駿河湾の景色を眺めていると、不思議と体の内側から温かさが湧き上がってくるのを感じた。それは、しきじで過ごした時間が、まだ私の中に生き続けているからかもしれない。

サウナしきじは、単なる入浴施設ではない。それは、水と炎が織りなす特別な世界。時間を忘れ、日常を忘れ、ただ自分の呼吸と向き合う場所。明日への活力を与えてくれる、現代人のオアシスなのだ。

湧き続ける奇跡の水のように、私たちの心も、この場所に触れることで新たな命を吹き込まれる。あなたも一度、この特別な場所を訪れてみてはどうだろう。そこには、言葉では表現できない、心と体の深い「整い」が待っているはずだ。

文・一順二(にのまえ じゅんじ)

一順二(にのまえじゅんじ)
猫のロキ
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