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白川湖

春の陽光が差し込む山形の朝、白川湖の水面に浮かぶシロヤナギの木立は、まるで水の中から生まれた夢のような光景を描き出す。人の手によって造られた白川ダムが生み出した、自然と人間の共演とも言える不思議な美しさ。特に雪解けの時期、湖水が満ち始める3月下旬から5月中旬にかけて現れる「水没林」は、この世のものとは思えない幻想的な姿を見せる。

白い霧が立ち込める早朝、湖面には朝の光と残雪の山々が映り込み、まるで天と地が溶け合ったような風景が広がる。「湖水に浮かぶ地球のアート」と称される所以だ。3月下旬から4月中旬には、まだ芽吹く前の木々が作り出す「白の水没林」が、5月になると新緑のシロヤナギが湖面を彩る「緑の水没林」へと姿を変える。自然が描き出すこの一時的な芸術は、やがて5月下旬に水位が下がるとともに静かに姿を消す。その儚さがまた魅力でもある。

夜になると湖畔はまた違った表情を見せる。ライトアップされた水没林が湖面に映り込み、星空とともに幻想的な世界が広がる。キャンプサイトの前で焚火を囲み、この光景を眺めながら過ごす時間は格別だ。土日祝日には水没林BARも開かれ、光に包まれた水没林を眺めながらの一杯は、訪れた者だけが味わえる特別な体験となる。

湖の魅力は春の水没林だけにとどまらない。遅咲きの桜と新緑の水没林が織りなす春の景色、雪の祭典「白川ダムSNOWえっぐフェスティバル」が開催される真夏、紅葉に染まる秋の湖畔と、四季折々に美しい姿を見せる。どの季節に訪れても、自然の息吹を感じられる場所だ。

特別な体験として人気を集めているのが、不定期で開催される「白川サウナ」だ。湖畔に設置された移動式のテントサウナで汗を流した後、神秘的な水没林を望む白川湖に飛び込む「ととのい」は、サウナ愛好家たちの間で秘かな聖地として知られ始めている。テントサウナから一歩外に出れば、目の前に広がるのは絵画のような風景。水蒸気の向こうに浮かぶ水没林を眺めながらの休憩は、都会のサウナでは決して味わえない贅沢な時間だ。季節や水位によって景観が変わるため、毎回異なる「ととのい」体験ができるのも魅力のひとつ。イベント情報は公式SNSでのみ告知されることが多く、サウナと自然、両方を愛する人々が全国から訪れる隠れた名物イベントとなっている。

この豊かな自然を体感するには、カヌーやSUP(スタンドアップパドルボード)体験もおすすめだ。水面に近い視点から眺める水没林は、陸地からでは味わえない迫力がある。早朝のプレミアムプランでは、風の弱い湖面への映り込みが美しく、まるで夢の中にいるような感覚を味わえる。

湖畔には、オートキャンプ場や無料のキャンプサイトも整備されており、大自然の中での一夜を過ごすことができる。パークゴルフ場やサイクリングコースも整備され、体を動かす喜びも味わえる。期間限定では熱気球のフライト体験も行われ、空から水没林を一望するという貴重な体験も可能だ。

山形県西置賜郡飯豊町に位置する白川湖へのアクセスは、車が便利だ。JR手ノ子駅からは車で約20~25分、東北中央自動車道南陽高畠ICからは約45分の距離にある。公共交通機関では、JR米坂線の手ノ子駅が最寄りだが、駅からのバスはないため、タクシーを予約するか、レンタカーの利用が推奨される。

白川湖周辺には「白川温泉いいで白川荘」があり、温泉に浸かった後は地元食材を使った料理や名物のどぶろくを使用したどぶろくラーメン、ヤマメ天丼などを味わうことができる。どぶろくはお土産にもおすすめだ。

この白川湖は、1968年から計画された「白川総合開発事業」によって建設された白川ダムによってできた人造湖だ。洪水調節や灌漑、発電など多目的のためのダムだが、その建設により100戸以上の家屋が移転を余儀なくされたという歴史も刻まれている。

周辺には、飯豊町の他の魅力的なスポットも点在する。道の駅いいでやめざみの里観光いちご園では地元の特産品や新鮮なイチゴ狩りを、飯豊連峰では登山やハイキングを楽しむことができる。田園散居集落では日本の原風景とも言える美しい景観が広がり、源流の森センターでは木工クラフトや陶芸なども体験できる。

「まるで絵画のようだ」「息をのむ美しさ」と多くの訪問者が絶賛する白川湖。雪解け水が生み出す期間限定の幻想的な光景は、訪れる人々の心に深く刻まれることだろう。水面に映る空と木々が描き出す一時的な芸術作品を目にするために、春の訪れとともに白川湖を訪ねてみてはいかがだろうか。

文・一順二(にのまえ じゅんじ)

一順二(にのまえじゅんじ)
猫のロキ
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