路地を進むごとに、都会の喧騒は少しずつ消えていく。白い螺旋状のモチーフが施された六本木complex665の外観は、まるでアートそのものだ。東京の中心に佇むこの3階建ての建物は、2016年の開設以来、現代アートを求める人々の魂の拠り所となっている。
かつて隅田川エリアの丸八倉庫で創造の火を灯していた三つの魂—小山登美夫ギャラリー、シュウゴアーツ、タカ・イシイギャラリー—が、より多くの人々の心に触れるべく六本木へと移り住んだ。それは単なる場所の移動ではなく、東京のアートシーンにおける新たな星座の誕生を意味していた。
六本木の裏通りに位置するcomplex665は、華やかな六本木ヒルズからほど近い。日比谷線や大江戸線の六本木駅から徒歩わずか3分という立地は、まるで都市が意図的に設計したかのように、忙しい日常から芸術への逃避行を容易にしてくれる。
建物に一歩足を踏み入れると、そこは現実とは異なる時空間だ。1階にはモダンな家具とデザインを扱うBroadbeanのショールームがあり、生活の中のアートという概念を静かに問いかけている。そして上階へと進むと、三つの異なる宇宙が広がっている。
各ギャラリーでは、季節ごとに様々な企画展が開催され、常に新鮮な現代アートの風が吹き抜けている。国内外の気鋭のアーティストたちの作品が、訪れる人々の感性を揺さぶる。芸術表現の多様性と可能性を体感できる貴重な場所だ。
広々とした展示空間には、時に天井まで届く巨大な絵画が、時に等身大のリアルな彫刻が鎮座している。ここでは作品だけでなく、空間そのものが観る者の感性を解放する装置となっている。モダンな建築は、かつてのインダストリアルな倉庫の雰囲気とは対照的だが、それもまた芸術の進化を象徴しているようだ。
各ギャラリーが独自の世界観を持ちながらも、同じ屋根の下に共存するというこの形態は、鑑賞者にとって大きな恵みとなっている。限られた時間の中で異なる感性に触れ、比較し、考察する。それは単なる「見学」ではなく、能動的な「体験」なのだ。
ただし、このアートの聖域を訪れる際には注意が必要だ。各ギャラリーは展覧会の合間に休館することがあり、そのスケジュールは必ずしも一致していない。公式ウェブサイトという一元的な情報源も存在せず、訪問者は各ギャラリーのウェブサイトで最新情報を確認する必要がある。それはある意味、デジタル時代の「宝探し」の始まりでもある。
六本木complex665は、「アートストリート」と呼ばれる六本木の中でも特に輝きを放つ存在だ。ペロタン東京、WAKO WORKS OF ARTといった他のギャラリーと共に、芸術を愛する人々の巡礼コースとなっている。
毎日の雑踏から抜け出し、現代アートの洗礼を受けに行くこの旅路は、思いがけない発見と内省の時間をもたらしてくれる。季節ごとに表情を変えるギャラリーの展示は、年間を通じて訪れる価値がある。彼らが紡ぎ出す物語は、私たちの感性を揺さぶり、時に慰め、時に挑発し、そして常に新鮮な視点を提供してくれるだろう。
東京の喧騒の中で、静かに佇む白い螺旋。その中に広がる無限の創造性は、都市の息吹と共鳴しながら、訪れる者の心に永遠の印象を刻み続ける。
六本木complex665—それは単なる建物ではなく、現代の魂の旅を導く灯台なのだ。
文・一順二(にのまえ じゅんじ)

