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瓜割石庭公園

山形県南部の高畠町に佇む瓜割石庭公園は、人の手と時間の流れが刻んだ空間である。かつて高畠石の採掘場だったこの地は、今や奇岩が織りなす壮大な景観で訪れる者を魅了する。公園へと足を踏み入れると、木々の間から時折覗く岩肌が、何かの予感を漂わせる。小道を進み、小さなトンネルを抜けると、突如として視界が開ける。切り立った高さ30メートルを超える岩壁が圧倒的な存在感で迫り、ここが日常とは隔絶された別世界であることを実感させる。

瓜割石庭公園の岩壁

石壁の表面には、1922年から2010年まで続いた長い採掘の歴史が刻まれている。「ホッキリ」と呼ばれる特殊なつるはしや玄能を使い、職人たちが一つひとつ手作業で石を削った跡が、今もなお鮮明に残る。その痕跡は、かつての労働の記憶を現代に伝える無言の証言者だ。高畠石は柔らかく加工しやすい性質を持ち、古墳時代の石室から江戸時代以降の民家の石塀まで、長きにわたり地域の暮らしを支えてきた。国の有形文化財に登録された旧高畠駅舎も、この石の重要な使用例である。

公園の名前の由来となった「瓜割」には、興味深い伝説が隠されている。かつて採石場のそばから湧き出る清水に、喉を潤そうと瓜を冷やした職人たちが、水の冷たさに瓜が割れてしまったという。奥羽山脈から流れる地下水がその源で、今でも公園内には水たまりや泉のような場所が点在し、石壁を流れ落ちる水が黄色、ベージュ、茶色の帯状の模様を刻んでいる。

公園内の見どころは多い。「石舞台」と呼ばれる空間は、高くそびえ立つ石壁が天然の円形劇場のような場所を形成している。澄んだ空気の中で小鳥のさえずりや手を叩く音が美しく響き渡る。石舞台から少し降りると、「まほろばの七福神」と呼ばれる七体の石像が、それぞれ異なる表情で訪れる人を見守っている。これらは高畠町と中国の蓬莱市との友好関係を象徴するものだ。石切り場の跡地では、フクロウとカエルの石像が静かに佇み、「芋煮会場」では山形名物の芋煮を自然の中で味わうことができる。

この壮大な石壁を舞台に、2019年から「岩壁音楽祭」が開催されるようになった。高さ50メートルにも及ぶ巨大な岩壁に囲まれた空間で音楽を楽しむ体験は、他に類を見ない。「圧倒的な絶景」と「リラックスしたムード」が共存するこの場所で、音楽と自然が織りなす非日常的な時間が流れる。

会場内には「CAVEステージ」と「WALLエリア」の二つのメインステージがあり、それぞれ異なる音楽体験を提供する。来場者とアーティストの距離が近く、自然なコミュニケーションが生まれるのも魅力のひとつだ。2022年の音楽祭では来場者の半数以上が25歳以下と若い世代が集まり、多くの学生がスタッフとして運営に参加し、活気に満ちた雰囲気を作り出した。

夜になると、満天の星空の下、石舞台では幻想的な音楽が響き渡る。昼間の鮮明な岩肌と夜の静寂のコントラストが、音楽祭の独特な魅力を形成している。過去には、KID FRESINO、Seiho、Licaxxx、mabanua、chunkism、D.A.N.など、ジャンルを横断する多彩なアーティストが出演してきた。

そして2025年9月20日と21日には、「THE FINAL」と題された最後の岩壁音楽祭が開催される。主催者はこの最終回を、単なる音楽イベントとしてではなく、参加者一人ひとりの「体験そのもの」に焦点を当てたものにしたいと考えている。そのため、チケットはオンライン販売は行わず、レコードショップやピザ屋、コーヒースタンドなど、各地の実店舗や手売りでのみ販売される。これは、ソーシャルメディアのアルゴリズムや他人の意見に左右されることなく、音楽祭に行くという行為そのものを大切にしたいという主催者の思いの表れだろう。

瓜割石庭公園は、JR山形新幹線高畠駅から車で約15分、東北中央自動車道南陽高畠ICからは約10分の距離にある。入園料は基本的に無料だが、冬期間は積雪のため立ち入りが困難になる。周辺には高畠ワイナリー、まほろば観光果樹園、道の駅たかはた、大聖寺(亀岡文殊)など、魅力的な観光スポットも点在している。

かつて採石場だったこの場所が、今や多くの人々に感動を与える空間へと変貌を遂げた奇跡。職人たちの手作業の痕跡と、現代の音楽が共鳴する不思議。瓜割石庭公園は、過去と現在、自然と人間の営みが交差する場所として、訪れる者の心に深い印象を刻み続けるだろう。2025年の最後の岩壁音楽祭は、この特別な場所で音楽と自然が織りなす魔法のような時間を体験する最後のチャンスとなる。時代を超えて響く石の記憶と音楽の調べを、ぜひ肌で感じてみてほしい。

文・一順二(にのまえ じゅんじ)

一順二(にのまえじゅんじ)
猫のロキ
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