東京ミッドタウン日比谷の7階、皇居の濠を見下ろす場所に「日本料理 龍吟」はある。禅の言葉「龍吟ずれば雲起こる」から名を取ったこの店は、「想いを決めた勇者がひとたび行動を起こすと、同志が互いに共鳴し合い、そこに集う」という意味を込めている。2003年に六本木で産声を上げ、2018年に現在の地へと移った龍吟は、単なるレストランではない。日本の美食の頂点を象徴する存在として、14年連続でミシュランの三つ星を獲得し続ける揺るぎない存在だ。
店に足を踏み入れると、まず目に映るのは艶やかな黒の大理石が使われたエントランス。水打ちをしたばかりのように見える石畳の床が広がり、日本を代表する名工たちの手による陶磁器がギャラリーのように飾られている。壁には龍のモチーフが描かれ、食器やコースターにもその姿が潜む。洗練されたシンプルさの中に、日本の「本物」を集めた空間だ。
オーナーシェフの山本征治は、その料理哲学を「日本の癒し」と表現する。彼は料理とは素材の理を量ることだと考え、日本のテロワールを深く理解し、その土地で育まれた最高の食材を厳選する。素材そのものが持つ力を最大限に引き出し、食材が語りかけてくる声に耳を傾け、対話を通して料理を創造するという。明確な理論に基づきながらも科学的視点を取り入れた革新的な手法は、伝統と現代の融合を体現している。
龍吟のメニューは季節や仕入れ状況によって日々変化し、常にその時期の旬の味覚を堪能できる。冬には天然トラフグを贅沢に使った「龍吟 ふぐコース」、春には「貝尽くしコース」など、季節の特別メニューが提供される。また、その日最高の魚介を用いた「海の幸からの便り」や、香川県産のオリーブ牛を使った料理は、素材の本質を引き出す山本の技術が光る。
デザートにも妥協はない。-196℃で瞬間冷凍した飴細工の中に冷たいパウダーやアイスクリームを詰めた「-196℃ 飴細工のリンゴ/イチゴ」や、温かいスフレと冷たいアイスクリームで日本酒の風味を表現した一品など、遊び心と技術が融合した創造性に富む料理が並ぶ。
龍吟の価値は、ミシュランだけでなく世界的なレストランランキングでも認められている。「世界のベストレストラン50」「アジアのベストレストラン50」で常に上位にランクインし、フランス発のレストランガイド「La Liste 2020」では世界第1位に輝いた。「ゴ・エ・ミヨ東京」では19/20という高評価を獲得し、山本は「今年のシェフ賞」を受賞。2024年には「The Best Chef Awards」で「Three Knives」に選出されるなど、国内外から高い評価を受けている。
龍吟での食事は完全予約制で、高級店に相応しい価格設定となっている。一見すると高額に感じるかもしれないが、訪れた者の多くはその価値を認め、「美味しい」「最高」といった絶賛の声を上げている。特に季節の食材を用いた料理が高く評価されている。
予約は人気店ならではの競争があるものの、比較的座席数に余裕があるため、同クラスの他の名店と比べると予約の取りやすさは朗報だ。確かに予約開始日には予約サイトへのアクセスが集中することもあるが、タイミングを見計らえば席を確保できる可能性は高い。外国人観光客の間でも「日本を訪れたら行くべき店」として名高く、海外からのゲストも少なくないが、事前計画をしっかり立てれば予約は十分可能だ。予約方法は電話またはオンラインで受け付けており、特に海外からの場合は宿泊ホテルのコンシェルジュを通じた予約も視野に入れるとよいだろう。数週間前から計画すれば、この名店での食事体験を確保できる見込みは十分にある。
龍吟は単なる食事の場ではない。山本征治が紡ぎ出す料理は日本の豊かな自然と文化を表現し、五感で感じる官能的な体験を提供する。数々の栄誉に輝く龍吟を訪れることは、日本の美食の頂点に触れる貴重な機会となるだろう。龍吟は今後も、季節ごとの特別コースや新たな試みを通して、日本の美食文化を牽引していくことだろう。
文・一順二(にのまえ じゅんじ)

