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サウナ東京

赤坂の路面に佇むそれは、都会の喧騒から逃れる別世界の入口だった。千代田線赤坂駅から徒歩わずか2分。溢れる蒸気と共に、心まで昇華させる空間――サウナ東京。

2023年春の開花と共に誕生したこの施設は、サウナ文化の頂点を極めんとする意思に満ちている。一歩足を踏み入れれば、五感を揺さぶる熱風が全身を包み込む。ここでは、熱と水と休息が、三位一体となって都会の疲弊した魂を解放する儀式が日々執り行われているのだ。

その真髄は、個性を放つ五つのサウナにある。中でも「蒸喜乱舞」は、都内最大級の広さを誇るメインステージ。40名以上が肩を並べて座れる空間で、光と音が織りなす演出に身を委ねる。30分ごとに自動的に湯が注がれるオートロウリュは、熱波の波動を送り、時には専門のアウフギーサーが繰り広げる技巧的なアウフグースショーが、その場に集う者たちを熱狂の渦に巻き込む。

対照的なのが「瞑想」。半個室の静寂空間で、一人黙して熱と向き合う密室。やや低温でありながら、高湿度がもたらす体感温度は思いのほか高く、内省の時間を深める。無言の対話がここでは許される。

北欧から直輸入された貴重なケロ材を使用した「手酌蒸気」は、芳醇な木の香りが漂う空間。利用者自らが砂時計の時を見計らい、湯をストーブに注ぐセルフロウリュが許された、参加型の熱体験だ。

「昭和遠赤」は、懐かしさを呼び覚ます高温乾燥サウナ。サウナ東京唯一のテレビ設置空間で、銭湯を彷彿とさせるレトロな空気が漂う。そして「戸棚蒸風呂」は、江戸時代から続く入浴法を現代風にアレンジした和のスチームサウナ。下半身は湯に浸し、上半身は蒸気で温める特異な温浴法は、和の叡智を今に伝える。

これら五つの熱空間を巡った後は、三種の水風呂で熱を鎮める。備長炭のミネラルを含んだ15℃の「冷」、心地よいバイブラ機能付きの22℃「涼」、そして一人用の8℃「凍」。温度差による身体の覚醒は、感覚を研ぎ澄ます。

熱と冷の変奏を繰り返した後、60名以上が寛げる休息空間がその体験を完結させる。アディロンダックチェアや畳ベッドに身を委ね、ポカリスエット、自家製デトックスウォーター、麦茶で水分を補給する時間。ここでこそ「ととのう」という至福の状態に辿り着く者も多い。

時間の経過と共に料金が変動する仕組みは、利用者の滞在パターンを尊重する。平日と土日祝で異なる料金体系を採用し、都内の高級サウナとしては標準的な価格帯。頻繁に訪れる常連には特典付きの回数券も用意され、リピーターへの配慮が感じられる。

営業時間は午前5時から午前3時まで。深夜3時から5時までの間は清掃のため利用できない。この時間帯、熱の聖域も一旦呼吸を整える。多様なライフスタイルに寄り添い、早朝の静寂を求める者も、夜の熱気に浸りたい者も、自分のリズムで訪れることができる体制を整えている。

男性専用施設でありながら、不定期で女性限定デーも設けられ、多くのサウナ愛好家を魅了している。コラボレーションイベントも積極的に開催し、常に新しい風を取り入れる姿勢は、施設の鮮度を保つ秘訣だろう。

見放題のテレビも、賑やかな談笑もない2階は完全黙浴エリア。ここでは言葉を忘れ、ただ熱と水と己の呼吸だけに集中する。都会の喧騒から逃れ、一時の隔絶された時間と空間。それがサウナ東京の本質なのかもしれない。

赤坂の喧騒から一歩踏み出せば、そこには静謐と熱気が同居する別世界が広がっていた。熱に身を委ね、水に身を晒し、静寂の中で己を見つめ直す。サウナ東京は、単なる温浴施設ではなく、現代人の魂の休息所として、その扉を常に開いている。

文・一順二(にのまえ じゅんじ)

一順二(にのまえじゅんじ)
猫のロキ
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