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FOLKWOOD SAUNA

森の香りが鼻腔をくすぐる。耳を澄ませば、木々の間を通り抜ける風と、遠くに聞こえる野鳥のさえずりが心地よい。そんな豊かな自然に抱かれた場所に、ティピテント型の不思議な建物が佇んでいる。

folkwood sauna 休憩場所

山梨県北杜市小淵沢町。中央自動車道を降りてわずか5分ほどで到着するこの場所は、「FOLKWOOD VILLAGE 八ヶ岳」と呼ばれる約18,000坪の広大なアウトドア複合施設だ。その一角に位置するのが、今回訪れた「FOLKWOOD SAUNA」である。

施設に足を踏み入れた瞬間、ここが単なるサウナではないことを直感した。三角形のティピテント型をした木造のサウナ棟は、それ自体が芸術作品のよう。内部に入ると、中央に据えられた薪ストーブを囲むように円形に座席が配置され、奥に行くほど座面が高くなる構造になっている。

「ここのストーブはフィンランド製なんですよ」と、受付で出迎えてくれた笑顔の青年が教えてくれた。薪がゆっくりと燃える様子を眺めていると、その香りは森の奥深くから湧き上がるよう。サウナ室内に漂う香りは、どこか芳醇で甘い。

扉を閉め、静かに座り込む。薪が弾ける音だけが室内に響き、じわりと体が温まっていく。温度計は85℃を指している。そんな高温にも関わらず、息苦しさを感じないのは、ストーブ裏からの絶妙な給気設計のおかげだろう。

10分ほど体を温めたところで、いよいよ水風呂へ。施設内には複数の水風呂が設置されているが、中でも印象的だったのは、木彫りの熊の口から水が流れ落ちる樽型の水風呂だ。手で触れると、その冷たさに思わず息を呑む。案内によれば、八ヶ岳の天然水を使用しているという。飲んでみると、確かにまろやかで美味。

しかし、FOLKWOOD SAUNAの真髄はむしろ水風呂の先にある。それが「ガッシングシャワー」と呼ばれる設備だ。ロープを引くと頭上から溜まった冷水が一気に降り注ぐ、いわゆる「桶シャワー」のような仕組みになっている。勇気を出して体を滑り込ませ、ロープを引いた。

「うわっ!」

思わず声が漏れた。全身を襲う強烈な冷たさと、それに続く言葉にならない爽快感。これぞ「ととのい」への儀式だ。

水浴びの後は、森の中に点在する外気浴スペースへ。コールマン社のインフィニティチェアに身を委ね、頭上を見上げると、木漏れ日が揺らめいている。ハンモックやファイヤープレイスも用意されており、季節によっては焚き火を囲みながら外気浴を楽しむこともできるという。

この日は初秋。肌に触れる風は心地よく、頬を撫でていく。遠くから鳥のさえずりが聞こえ、時折小さな虫が飛んでくる。自然の中での外気浴は、日常の喧騒を忘れさせてくれる。

「アロマ水ロウリュどうですか?」

微笑みかけるスタッフの問いに頷き、再び熱気に包まれる。二回目ともなると、体の芯まで溶けていくような感覚がある。今度はセルフロウリュを試してみた。専用のひしゃくで水をストーンにかけると、「シュッ」という音とともに蒸気が立ち上り、一気に体感温度が上昇する。皮膚の毛穴が全開になり、新鮮な酸素が全身を巡るような感覚に陥る。

FOLKWOOD SAUNAの魅力は、この本格的な薪サウナだけではない。周囲に広がるFOLKWOOD VILLAGEという環境自体が、訪れる者の体験を豊かにしてくれる。サウナセッションの後は、敷地内のFOLKWOOD CAFEでのんびりと食事を楽しむこともできる。オールドアメリカンダイナーをベースにしたメニューには、地元産ワインビーフを使ったチーズバーガーや甲州地鶏のカレーなどがラインナップされている。

もし時間に余裕があれば、近隣の観光スポットも見逃せない。車で約3分の場所には中村キース・ヘリング美術館や道の駅こぶちさわがあり、少し足を延ばせばサントリー白州蒸溜所の見学も可能だ。この地域は乗馬やハイキング、フルーツ狩りなどのアクティビティも充実している。

「サウナ×自然」という組み合わせが生み出す体験は、都市部の最新設備を備えたサウナでは決して味わえない特別なものだ。ガラス張りの大開口から森を眺めるのと、実際に森の中に身を置くのとでは、その没入感に雲泥の差がある。

利用にあたっては、いくつか注意点もある。FOLKWOOD SAUNAは男女混合で利用するため、水着の着用が必須だ。私はうっかり忘れてしまい、受付で慌てて300円でレンタルすることになった。

予約は公式ウェブサイトから事前に行うことを強く推奨する。特に週末や祝日は早めに埋まってしまうことが多い。料金は平日なら2,500円、土日祝は3,000円だ。決済はキャッシュレスが基本となっているので、現金派の方は注意が必要だ。

最後にもう一度、インフィニティチェアに腰を下ろし、森の木々を眺める。これが東京から約2時間という距離にあると思うと不思議な気分だ。今度は冬に訪れて、雪景色の中でのサウナ体験を味わってみたい。もしかしたら水風呂はさらに冷たくなるかもしれないが、あのガッシングシャワーを思い出すと、今から武者震いがする。

間違いなく再訪したい場所だ。自然とサウナの融合が生み出す究極のととのい体験は、一度味わうと忘れられない。

文・一順二(にのまえ じゅんじ)

一順二(にのまえじゅんじ)
猫のロキ
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