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所沢King&Queen

埼玉県所沢。この地に誕生した「温泉バルコニー キング&クイーン」は、その名の通り、訪れる者を王様や女王様のような気分にさせる魔法の場所だ。地下1300mから湧き出る天然温泉を中心に、サウナ、岩盤浴、そして話題のグルメまで揃えた、まさに「温浴テーマパーク」と呼ぶにふさわしい空間が広がっている。

温泉バルコニー キング&クイーン外観

かつて「狸 自然乃湯」があった場所に建てられたこの施設は、スパジアム・ジャポンを手掛けるZIP株式会社が運営。オープン当初から大きな話題を呼び、週末ともなれば喜び声と湯けむりが渦巻く、熱気あふれる空間となっている。

天然温泉は「美人の仕上げの湯」という愛称で親しまれるナトリウム・カルシウム-塩化物冷鉱泉。肌の古い角質や皮脂を優しく取り除くクレンジング効果と、湯上がり後も潤いを保つ保湿効果が特徴だ。この温泉に浸かりながら、つるりとした肌触りを実感するのは、なんとも贅沢な時間である。

特に印象的なのは、バラエティ豊かな浴槽の数々。中でも個人的に心を奪われたのは「炭酸ヘッドマッサージ風呂」だ。寝湯スタイルで頭部を置くと、そこから炭酸の泡が噴出し、頭皮を優しくマッサージしてくれる。仕事で凝り固まった脳みそが、ゆっくりと溶けていくような感覚に、思わず「ととのった…」とつぶやいてしまった。

サウナは三種類あるが、一際異彩を放つのは「富士山溶岩ロウリュウサウナ」だ。別名「BIGスタジアムサウナ」と呼ばれるその空間は、男性側で50名以上収容可能な7段式ベンチを備え、まさに劇場のような雰囲気。定期的に行われるオートロウリュでは、富士山の溶岩石を使用したストーブに蒸気を発生させ、強力な送風で熱波が循環する。その激しさは時に100℃を超え、初めて体験した時は「これは炎天下のアスファルトの上で焼かれる肉の気持ちか…」と、思わず哲学的になってしまったほどだ。

しかし、このサウナの真価は、その後に待っている水風呂体験にある。施設最大の目玉と言っても過言ではない三種類の水風呂が、サウナで火照った体を待ち受けているのだ。

「遊 (Yū)」と名付けられた水風呂は、水深2mという驚異の深さを誇り、「GO DIVE!」のサインが示す通り、飛び込み・潜水・遊泳が全て許可されている。16℃前後の水温に全身を沈め、水中で静寂に包まれる感覚は、この上ない解放感をもたらす。私も初めて飛び込んだ瞬間、長年の疲れが一気に洗い流されるような気がした。思わず「ふざけんなよ…こんな気持ちいいの…」とつぶやいてしまったほどだ。

さらに衝撃的なのが「凍 (Kōri)」。マイナス20℃に設定された冷却室の中に設置された水風呂で、水温はシングル(一桁台)という極寒の世界。挑戦した勇者たちの表情は、まさに修行僧のようだ。私も意を決して挑んだが、入った瞬間に「こ、これはつ、つらい…」と言い訳を口走っていた自分がいる。しかし、その後の温かい温泉との温度差は、まるで人生を再起動させたかのような爽快感をもたらしてくれた。

三つ目の「涼 (Ryō)」は、約23℃の天然冷鉱泉をそのまま掛け流しで使用した水風呂。マイルドな温度で、極寒の「凍」と高温のサウナを行き来した後の癒しの場となっている。

食事処も充実しており、焼肉、冷麺、ラーメン、ピッツァ、カレーなど、有名店とのコラボレーションによる選りすぐりのメニューが揃う。サウナと水風呂を堪能した後の一杯は、格別の味わいだ。「麺屋はなび」の台湾まぜそばを食べながら、「これが極楽か」と思わず呟いてしまった。

施設内にはプレミアムなアメニティも充実しており、「ReFa」や「Mirable」のシャワーヘッド、「雪肌精」や「POLA」などの高級スキンケア用品が備え付けられている。手ぶらで訪れても十分に楽しめる環境が整っているのだ。

所沢という立地は東京からはやや離れているが、シャトルバスや駐車場も完備されており、アクセスにも配慮されている。特に車を持つ方にとっては、広大な無料駐車場(400台以上)が用意されているのは大きな魅力だろう。

「温泉バルコニー キング&クイーン」は、従来の温浴施設の概念を超え、温泉、サウナ、食、そして遊びを融合させた新たな「温浴エンターテイメント」の形を提示している。忙しい日常から離れ、心と体を解放させる一日を過ごすには、まさにうってつけの場所だ。平日の昼間なら比較的空いていることも多く、自分だけの王様体験が楽しめるかもしれない。

自称「現代の松尾芭蕉」として全国を旅してきた私だが、ここは「奥の細道」ならぬ「湯の細道」の新たな名所として、心に刻まれた一つとなった。皆も王様気分を味わいに、所沢の「温泉バルコニー キング&クイーン」への旅に出てみてはいかがだろうか。

文・一順二(にのまえ じゅんじ)

一順二(にのまえじゅんじ)
猫のロキ
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